コラム

ガリバー旅行記


最近の世相を見ていて、ふとガリバー旅行記を連想した。ガリバー旅行記とは、アイルランドの風刺作家J・スウィフトによって1726年に出版されたものだが、当時のイギリス社会の慣習などに批判的な視点で描かれている。日本では子供の本として紹介されているケースが多いが、もともとは大人向けの風刺小説である。

第1篇は小人の王国リリパット国渡航記というタイトルで、医師であるガリバーが航海で難破し、たどり着いた先がリリバットという小人の国で、いつも卵の殻を大きい方から剥くか、小さいほうから剥くかというどうでもよいようなことで争いをしている国だ。この卵の剥き方は一方はカソリックをもう一方はイングランド国教を表しているらしい。またフランスとイギリスが常に戦争している国のモデルとして書かれているらしい。

第2編は巨人の王国ブロブディンナグ国渡航記といい、第3篇は空に浮かぶ島ラピュータ・バルニバービ、魔法使いの島グラブダブドリック渡航記、不死の国ラグナグ、及び日本への渡航記が書かれている。架空の国の話に日本という実在の国が出てくる。そこではガリバーは踏み絵をさせられそうになるのだ。なぜ実在の国である日本が出てくるのか諸説があるが、当時日本の鎖国は世界で有名で、その交易で上がる富をオランダが独占していた。そのオランダに対し、イギリス人である作者は、踏み絵をしてまで日本の富を独占しようとするオランダ人に対して言いたいことがあったのだろうとも言われている。また、これらの発想はコミックのワンピースの作者にかなりのインスピレーションを与えていると思われる。小人の国、巨人国、空の上の国、天候を操る魔法使いの国、今ジャンプに掲載されている倭の国など、作家がインスピレーションを受けて新しく構想をして書いているが、約300年前のスウィフトの想像力に驚く。

第4編はフウイヌム国渡航記は平和で非常に合理的な社会を持つ、高貴かつ知的な馬の種族フウイヌムと、その対比として、人間そっくりの邪悪で汚らしい生物がヤフーとして書かれている。このヤフーは強欲で争うことが好きな醜い生物として描かれている。この人間と馬の立場が逆転して書かれていることは、映画の「猿の惑星」をイメージする。これらの想像力がガリバー旅行記を子供向けにアレンジしてまで提供した理由だろう。単純におもしろいのだ。そこでは、当然に政治的なものや、批判的なものは削除されている。今もてはやされている多くの作品のインスピレーションの元となるものは、過去にほとんど出尽くしているのかもしれない。想像力はロボットにはできないという人間が本来もつ素晴らしさが理解できる。

渕上コラム「変える言葉」