コラム


今年の世相を表す言葉は「密」という言葉と決まった。今年世界をパニックに落とし込んだコロナを表す言葉で、受賞は当然だろう。

まず会社での「密」というと、日本の企業における一人あたりオフィス面積の「密」がある。日本では何も生まないオフィスにはお金をかけない。そのためオフィスは密になりやすい。また社員同士での密もある。忘年会、仕事終わりの飲み会、仕事先との密である顧客との飲み会やゴルフなども多い。これは日本人が本来農耕民族のため、皆で協力して事に当るというアイデンティティーを持っているからだろう。そのため密に抵抗がないのかもしれない。

種の起源でダーウィンは、同じような種が分布している荒れ地に、回りに柵をしたり、1種のそこになかった木を植えるだけで、年数が経過すると、そこに生育する木の種類や昆虫の種類、生息する鳥などに大きな変化が起きることを確認している。柵をしただけなどのそんな小さな変化が年月の経過につれ考えられないような大きな変化を生じさせてしまうのだ。これは経営にも言えることかもしれない。大きな事をしようとすると全員が反対して先に進まなくなるが、小さな事を実行することで、知らず知らずに企業の体質が変わってしまうことはよくある。

2010年2月にHISの澤田社長がハウステンボスを引き受けたときに、ハウステンボスの社員はどんな大なたが振られるのか、リストラされるのではと戦々恐々だったと聞く。しかし、澤田社長が出した基本方針の第一は「掃除の徹底」だった。第二は「元気に仕事をしよう」、第三は「経費を2割下げて、売上を3割増やそう」と続くが、とりあえず社員は安堵すると同時に頑張ろうと考えることになる。もちろんそれは社員向けであり、経営者として、もっと大きな固定資産税を穴埋めできる再生支援交付金の取得や銀行の借入金の放棄なども取り付けての話しだ。

次にビジョンが来る。「東洋一美しい観光ビジネス都市」という視点だ。お客の少ない冬に「光の王国」とうたってイルミネーションを増やし続け、1300万球のイルミネーションを実現し、日本一となって顧客の増加に寄与している。つまり澤田社長という一つの木をハウステンポスに植え、澤田社長は掃除を通じてそこに存在する社員のやるき、安心感を引き出し、まったく違う会社の体質を作ってしまったのだ。小さなことを馬鹿にしてはいけない。小さなことをきちっとすることは経営の第1歩である。

渕上コラム「変える言葉」