コラム

予祝


「予祝」という言葉がある。広辞苑にものっている言葉だ。別名「前祝いの法則」ともいう。つまり祝福を実際に起こる前に実施するのである。そうすると夢や願いが叶うというのである。誰もがそんなばかなこと考えると思う。しかし、理屈をもう少し掘り下げて聞くと納得してしまう。

願いを叶える最高の秘訣は、先に喜んでしまうこと。何か騙されたような気がするが、実は多くの有名人がそれについて語っている。最近でいうと「フィギュアスケートの羽生結弦さんだ。2014年のソチオリンピックに向かう飛行機の中では2種類の4回転ジャンプを飛んで金メダルをとった喜びで満たされていたそうだ。そのため実際に金メダルを取った時は、「飛行機のなかで、イメージしすぎて、飛行機の方が感動しちゃいました」と述べている。ソフトバンクの孫さんもプロジェクトを立ち上げるさいには、そのプロジェクトが成功したときのことをイメージし、先に喜びに浸るそうだ。

これは何を意味しているのだろうか。過去・現在・未来という時間軸になかで、脳の中では未来が最初に来るらしい。つまり、「未来をどうしたいのか?」という目的がないと、脳の時間は動かないらしい。私たちがなにか行動を起こすとき、必ずそこには得たい結果がある。つまり脳は「未来志向」なのだ。その未来を、ちゃんと心ときめく未来に設定するが予祝なのだ。

昭和36年松下通信工業(現パナソニック)の幹部全員が集まり会議が開かれていた。それはトヨタからカーラジオについて大幅な値引要求があったからだ。皆どうすべきか困惑していた。その時松下幸之助氏が現れた。そして「なぜ、トヨタはそんな要求をしてきたのか?」と皆に尋ねた。実はこのトヨタの要求の裏には貿易の自由化問題があった。アメリカのGMやフォードなどの大メーカーとの競争が本格化し、このままでは日本の自動車産業そのものが滅んでしまうという危機感がトヨタにあったのだ。幸之助は続けた「松下がトヨタの立場ならどうする。同じ要求をしたかもしれない。トヨタはどうすればコストダウンを達成し、日本の自動車産業を発展させることができるかという危機感でいっぱいなのだろう。いわば業界全体、さらには国の事を考えている。松下1社の話ではない。何としても値下げにこたえなあかん」。幸之助はこの問題を乗り越えることで、どんな未来が待っているか想像させたのだ。

渕上コラム「変える言葉」