コラム

事業性評価とモニタリング


金融庁の地域金融企画室長の日下智晴氏の講演を聞いた。金融検査マニュアルと言う金融機関を縛る仕組みが平成11年7月に公表されて、20年後の令和元年12月にマニュアルが廃止される(予定)とのことだ。この間は20年続いた不幸な時代であり、つまり大量の不良債権を抱えた金融機関を外科的手術により再生させる手段だったらしい。

日下氏の話を聞くと、金融庁は、本来リスクを取るべき金融機関に「リスク」という観点で改善を迫った。その結果金融機関は思考停止に陥ってしまった。本当は上手にリスクを取るやり方を教えるべきだったと話していた。

金融機関には他の業種にはできない優れた役割がある。それは他の会計事務所やコンサル会社で仮に改善のための計画を作ったとしても、それにお金が付かないと実行ができないことが多く、どうしても根本的な改善よりも、資金需要をもたらさない節約志向の部分的な改善になってしまう。しかし、金融機関は違う。事業性評価を行い、改善計画を立て、それに融資をくっつけ、それをモニタリングすることで企業に他の業種ではできない大きなインパクトを与えることができる。これが本来の金融機関の役割だろうと話していた。

考えてみると、専門業種というものはそういうものだろう。弁護士は法律の専門家だ。税理士は税務の専門家だ。しかし、その本来の業務にばかり注力していると成長はできない。その本来の業務から派生した次の時代の成長の種を育てないといけない。その種が次の時代の成長を支える。金融機関の事業性評価によるモニタリングがそうだし、税理士における経営改善計画とMAS監査もそうだ。コンサル会社も実効性のある方法を選び始めた。次の時代が必要とする結果の出るやり方、仕組みを必要としているのだ。

どんな業界でも、必ず大きな視点をもって仕事をしている人はいる。できれば、生計の手段としての仕事から脱し、社会に有益な仕事に一生をささげたいと思わせていただいた日下氏の講演であった。

渕上コラム「変える言葉」