コラム

人生の目的と仕事


「あなたの人生の目的は何ですか?」と聞かれて「これこれです」と答えられる人はあまりいないと思われる。しかし、目的があった方が自分の人生に達成感は得られる。目的があれば目標は自然とでてくるし、目標があると人は前に進むようになる。つまりより前向きに学び、よりよく働くことにより、より社会に貢献し、自身の能力を磨くことが出来る。そういう人は魅力的だ。起業家などがもてるのはそういう魅力を持てるからである。特に若いときに目的・目標がないと自らの能力を磨き、社会のために役立てることができない。これは大きな損失である。

福沢諭吉の言葉に、「進まざるものは必ず退き、退かざるものは必ず進む」というものがある。多くの人は今のままで良い、つまり現状維持を望むらしいが、それは不可能である。子供じみた考えである。日本三大随筆の一つである。鴨長明の方丈記にも「世のすべてのものは常に移り変わり、いつまでも同じものはない」と書かれている。仕事においても同じで、会社とそこで働く従業員が現状維持を願った段階で、あっという間に時代遅れになってしまう。変えてはいけないものは仕事の中身ではなく、理念である。普遍的な理念を持ち、仕事は時代にあわせて変えていかないといけない。

普遍的な理念と言うと、明治に新しい考えや言葉が入ってきたときに、偉人はその言葉の本質を見抜き、日本語に訳している。例えば、「freedom」という言葉だが、福沢諭吉が「自由」と訳し、「心身の働きをたくましくして、人々が互いに合い妨げず」と規定している。社会、幸福、家族と日本語に訳したのも諭吉である。

少し横道にそれるが、「愛」という言葉は明治以前にはなかった。仏教用語の「愛」はあったが、それ以外は、「恋」、「色恋」くらいであり、西洋的な意味での愛はなかった。日本で初めて「愛」という言葉を使ったのは二葉亭四迷である。「浮雲」の中で最初「ラヴ」と表記し、その後「愛」と書いた。二葉亭四迷は英語の翻訳の中で出会った一節にも悩んで、「I love you」を、「死んでもいい」と訳した。夏目漱石は、同じ英語を「月が綺麗ですね」と訳したと言われている。そのセンスはすごいと思う。

つまりそれほど言葉とは後の時代に影響を及ぼすものなのだが、考えに考えた経営理念の言葉を大事にできない企業・社員の未来は暗い。もっと言葉に力を与えるべきである。それができるのは人しかない。良い言葉・理念は人生の宝物である。

渕上コラム「変える言葉」