コラム

イノベーションのジレンマ


隆盛を誇った企業が次第に衰退していく理由をイノベーションのジレンマという。これはハーバードの大学教授クリステンセンが唱えたことだが、巨大企業が傾くのは破壊的な変化を避けようとするのではなく、有望だが、現状の事業に悪影響を与えそうで、短期的な成長要件を満たさないと思われる新市場への対応が消極的になりがちだからだということだ。これは、大企業に限らずすべての企業にも当てはまる。

例えば、IBMはメインフレームからミニコンピューターへのシフトに乗り遅れたし、シアーズはデパートからディスカウントストアーへの変身に失敗したし、100年以上続く老舗であるコダックは写真フィルム事業を展開しながらデジタルカメラを開発していたにも関わらず、利益率が低い分野でどうなるかわからない新事業の立ち上げに経営陣が躊躇し、積極的な展開をしなかった。これに対し、アマゾンは新刊の売買に悪影響を与えそうな古本の売買を同時に行い、その後キンドルという電子書籍の開発などにもたゆまずに投資した。その結果が今のアマゾンの隆盛につながっている。

中小企業は基本的に資金が乏しい。ところが金融機関は常に過去の数字を参考にして融資するため、新規事業の投資がやりにくい。新規事業の投資というものは、基本的に大きな結果をもたらすものほど短期的に資金を回収することは難しいからだ。アメリカのシリコンバレーなら多くの投資家が将来有望と考えられる分野や技術に対し、過去の売上や利益に関係なく大きな資金の提供をする。しかし日本では悪評の高かったエンジェル税制など政府の支援策も乏しいし、個人の支援をする仕組みもない。そこで最近ではM&Aという形で支援が行われるようにもなった。

中小企業の場合、会社の寿命は30年と言われるが、通常10年で90%の企業がなくなってしまう厳しさを乗り越えた企業でも、新しいことに対するエネルギーが足りなくなる必然がある。まず経営者が老齢化して、新しいことに興味がなくなるか、じぶんのわからない分野を社員にまかせることができない。次に幹部社員もこれまでやってきたことを否定するような新分野に挑戦する部下に協力しない。それはこれまでの仕事の上に胡坐をかく古参社員にとっては我慢できないだろう。その結果業績は低迷し、古参社員の処遇が悪くなり、優秀な社員は別の企業に移るか、独立して起業することになる。そして企業は衰退する。M&Aで運よく新しい優秀な経営者に恵まれれば、次のステップに進めることもあるが、その時の問題は古参社員だ。彼らが意識を変えられるかが彼らの価値を決めることになる。

渕上コラム「変える言葉」