コラム

先入観


人は先入観の奴隷であるという見方がある。別の言い方をすると「人は経験の奴隷である。」とも言える。この経験には実際に本人がした経験も含まれるが、また自分では経験していないが、上司が言っていた、親が言っていたなどの間接的なものも含まれる。実際はこの間接部分の方が多くをしめるだろう。

私の父親は満州からの引き揚げ者だったが、戦争によりすべての財産を剥奪されたため、日本に帰ってきてから数十年経っても土地や家は最低限で良い.何があるかわからないからという考え方でずっとやっていた。私から見ると日本が占領していた満州と日本国内では全く違うだろうと思うが、本人は頑として受け付けなかった。理屈ではなく、強烈な体験により本人の血肉になってしまっているのだろう。これは変えることが出来ない。同じ理由でロシア人も死ぬまで嫌いだった。ロシアが入ってきて、金・酒そして女と要求してきたらしい。また、本人も殺されかけた経験があったと聞いている。

企業経営においてもこの先入観が大きく左右する。昔保険で損をしたからもうしない。同じく株で損をしたから2度としない。社員に裏切られたからもう信用しないなどさまざまなところに先入観が見え隠れする。例えば変額保険という商品がある。東京など都会では売れているが、地方では売れない。その理由はちゃんと勉強しているかどうかだ。地方では内容を聞かずにただ儲かるからといって買って損をすると、変額保険=損という図式がインプットされ、頭から除かれる。

コンサルタントの利用も同じだ.結局コンサルタントは経営者のサポートなのだが、他の経営者が利用して良かったというと利用し、その結果が悪ければコンサルタントはだめだとなる。本当はその知識などを経営者本人が理解し上手に利用していかないと結果はでないのだ。

しかしこの先入観は取り除くことは至難の業だ。誰にでも先入観はあるからだ。ただ一つのとらわれないやり方は、自分にも先入観があるということを理解することしかない。15世紀半ばから17世紀まで続いた大航海時代の発端は、私たちは世界のことを何も知らないと考えたヨーロッパ人によって始められた。自分は何も知らないということが好奇心という大きな知となって、世界を変えてしまったのである。経営においても私たちは何も知らない。従って大いに学ぶべきだと考えると企業の大航海時代がスタートするかもしれない。現代は新しいスキル、知恵に満ちているのだ。

渕上コラム「変える言葉」